このページは、ある美容師さんからの、「今お試しさせてもらっているセニングの他に、〇〇というセニングも検討しているんだけど、このセニングどう思います?」 という質問から生まれました。
そんなキッカケで、ちょっと調べてみてびっくり!
「ノーダメージ」 とか、「ゼロダメージ」 など謳っているセニングの中には、「けっこういい加減なものがあるなぁ…」 というのが、率直な感想です。
くれぐれも宣伝文句を鵜呑みにしないようにしましょう(もちろんセニングレボリューションも含みます^^)。
Q1.最近は櫛刃にも刃付けをしてあるセニングが多くありますが、そちらの方が両方からスパっと切ることができるので、髪のダメージが減るのではと思っていますが、その辺はどうなんでしょうか? ~ 兵庫県・オーナースタイリストMさん
まず、話をわかりやすくするために、先にカットシザーとセニングの切り方の違いを説明させてください。
ご質問の通り、カットシザーであれば、動刃・静刃の両方に鋭い刃付けがなされていた方が、より切れ味が増すことは間違いありません。
上図は、ハサミを横から見たところですが、このようにカットシザーは、棒刃と静刃の両方にするどい刃付けがしてあります。
それに対してセニングは、片側が櫛刃になっているので、「大抵の場合、するどい刃づけがしてあるのは棒刃の方のみ」です。
何故か?
カットシザーとセニングでは、ハサミの構造が根本的に違うので、切り方の発想も大きく異なるのです。
では、セニングは、どのような切り方なのでしょうか?
セニングの切り方は、櫛刃に溝をつけ、そこに入った毛を逃がさないようにして、するどい刃付けの棒刃でカットする『ギロチン方式』です(上図参照)。
上図は、セニングが出はじめた頃、どこのメーカーも作っていた型ですが、
1.V溝に入る髪の毛はしっかり切れるが、V溝に入らない髪の毛を棒刃で傷めてしまう。
2.隣り合った髪の毛を切ってしまうので、どうしてもラインが出やすい。
3.髪の毛を束にして切るので、どうしても重い切れ味になってしまう。
という構造的な3つの問題点がありました(下図参照)。
※セニングレボリューションでは、このV溝(U溝)のセニングを、第1世代セニングと呼んでいます。
第1世代セニングは、作業の効率面に関して言えば、一定の評価をされました。
ただ、「構造的に、お客様の髪の毛を傷めてしまう」、しかも、「美容師さんの使い方次第で、どうこうできる問題ではない」という事実は、やはり見過ごせない欠点であり、「セニングは髪の毛を傷めるから使わない!」という美容師さんを多数輩出してしまいました。
それから、少しの時が流れ、この3つの問題点を、劇的に改善したセニングが登場しました。
どう改善したかと言うと、
1.溝以外の刃先を斜めにすることで、溝に入らない髪の毛を上手く逃がす。
2.溝を小分けにして分散させることで、隣り合った髪の毛を切らないようにする。
3.2の工夫により、束で切らなくなったため、切れ味もソフトになる。
このように、3つの問題を大きく改善しました(下図参照)。
※セニングレボリューションでは、このカタチのセニングを、第2世代セニングと呼んでいます。
そして、その第2世代セニングを、さらに進化させたのが、第3世代セニングです(下図参照)。
※今回、Mさんにお試しいただいている「究極のセニング」と「至高のセニング」は、どちらも第3世代セニングです。
では、ここでMさんの質問に戻りますが、「櫛刃にも刃付けをした方が、両方からスパっと切ることができるので、髪のダメージが減るのでは?」のご指摘の通り、第3世代セニングの櫛刃に刃付けを施してみます。
さて、いったいどうなるのでしょうか?
下の図をご覧ください。
このように、櫛刃に鋭い刃付けをすると、溝に入った髪の毛はよりカンタンに切れるようになるでしょうが、一方で、「溝に入らなかった髪の毛を傷める原因も同時に作ってしまう」のです。
だから、『櫛刃には刃付けをしてはいけない!』のです。
そもそもセニングの問題は、「切らない毛を傷つけてしまう!」というのがはじまりです。
切らない毛を意図して作るセニングの場合(スキ率30%=切らない毛を70%残すということですから)、「櫛刃に刃付けをすると、プラスになるどころか、逆にマイナスになってしまう」ということですね。
さて今回、Mさんの質問をきっかけに色々調べてみましたが、いくつか気になる点がありましたので最後に触れておきます。
まず、セニングで髪を傷めるパターンは、大きく分けると2つあって
1.櫛刃の刃先の形状で、髪の毛を傷めてしまう大問題、
2.抜くときに、髪の毛を棒刃に引っかけて傷めてしまう小問題
があります。
今回、セニングレボリューションが問題にしているのはもちろん1番の方ですが、2番の小問題だけを取り上げて「ノンダメージ」とか、「ゼロダメージ」とか謡っている業者さんがいるのに少々驚きました。
※2番の小問題 ⇒ セニングを抜くとき、鋭く刃付けされた棒刃に髪の毛が触れると、髪の毛を傷める原因になります(上図参照)。
別に間違ったことを言っているわけではありませんが、長年かけて改善してきた1の大問題と比べると、2の方はそこまで大した問題ではありません。
何故なら、「セニングを閉じたまま抜かないようにする!」など、使い手の工夫次第でいくらでも対応できる話だからです。
にもかかわらず、「ゼロダメージ」とか「ノンダメージ」など、セニングの問題を全て解決しているかのように謳うのは、正直言って如何なものか…と(^^;
おそらく絶対に勘違いする美容師さんもいるはずです。
「このセニングさえ使っておけば、お客様の髪の毛を傷めることはない!」と!!(実際は、突っ込みどころ満載です。)
他にも、「業界初!櫛刃にも鋭い刃付けをしているので、今までの半分の力でカットできます!」とは書いてあるものの、どういう理屈なのか、何度読んでもさっぱりわからない…というセニングもありました。
何にしても、「髪の毛を傷めないセニング!」を謳っているモノの中には、けっこういい加減なモノが多いです。
というわけで、「セニングは、絶対にお試ししないで買ってはいけない!」
それが、今回の結論です(^^)
Q2.ちなみにこういったセニングのパターンはどう思われますか?
※名前を出すわけにもいかないので、どんな特徴のセニングなのかは下図を参照ください。
こちらのセニングは、〇〇というブランドが作っているセニングですね。
この〇〇セニングの最大のウリは、「髪の毛が引っかかりません = 抜けが良い」ということだと思います。
究極のセニングもそうですが、普通のセニングは棒刃に鋭い刃付け(青い部分)が成されています(そうじゃないと切れないですから)。
ただ、この構造の場合、毛髪2の位置にある髪の毛は問題ないですが、毛髪1の位置にある髪の毛が棒刃に触れたままセニングを引くと「ガリガリ」と傷つけてしまうことになります。
なので、髪の毛が棒刃に当たらないように気をつける必要があります。
その点、〇〇セニングは、棒刃に刃付けをしていないので、毛髪1の位置にある髪の毛であっても傷つけないという理屈ですね(上図参照)。
確かに、棒刃に刃付けがしていないのであれば、「抜くときに、髪の毛を棒刃に引っかけて傷めてしまう小問題」は、ほぼ気にする必要がなくなります。
ただ、櫛刃に刃付けをすることで、別の問題が発生するのでは???
そもそも、第1世代セニングの問題点は、溝に入っていない髪の毛を傷つけてしまうことにありました(上図参照)。
〇〇セニングを同じ構図で見てみると、棒刃の刃付けが櫛刃に変わっただけで、切る原理は第1世代セニングと同じだということがわかります。
この構造のセニングだと、
1.第1世代セニング同様に、髪の毛を傷つけてしまう。
2.溝がない分、しっかり切りきる点においては、第1世代セニングより劣る。
3.隣あった髪の毛を切る構造なので、ラインは出やすい。
ということが言えると思います。
それに加え、
4.細い櫛刃を鋭利にすると、落とした時に欠けやすくなる(棒刃と違って修復不可能)。
5.櫛刃が細くなると、棒刃とこすれた時に音が出やすくなる。
などの問題も考えられます。
上記のようなリスクを抱えてまで、「“抜くときに、髪の毛を棒刃に引っかけて傷めてしまう小問題” を解決する必要があるのか?」というのが、私の率直な感想です。
※とは言っても、あくまでもホームぺージに書かれていた情報のみで判断しているので、その点を十分にご考慮の上、参考にしてください m(_ _)m
次に、「抜くときに、髪の毛を棒刃に引っかけて傷めてしまう小問題」について、もう少し踏み込んでみます。
まず、何故この問題を、あえて小問題として扱っているかですが…、
普通に使っていれば、棒刃と髪の毛は、上図のような位置関係になっているはずで、
上図のようになることは、まずありません(髪の毛は、重力で下に自然に落ちますから)。
だから、問題があるとすれば、セニングで一度に大量の毛量をカットしようとする(そもそも、セニングの使い方として正しくありませんが^^)とか、
カットした後、セニングを下に引っ張りながら抜こうとするなど、正しい使い方をしなかった時ぐらいのものではないかと。
普通に使うシーンで気をつける必要があるとしたら、めがねタイプで棒刃を下にして使う時ぐらいでしょうか。
その場合であっても、セニングを刃が食い込まない方向に、少し傾けて抜いてあげれば、髪の毛を傷めることはありません(上図参照)。※傾ける方向にご注意ください。
このように、セニングの構造を理解して、正しい使い方さえ覚えれば、「抜くときに、髪の毛を棒刃に引っかけて傷めてしまう小問題」は、カンタンに回避することができます。
なので、セニングで髪の毛を傷める問題の本丸は、あくまでも、「櫛刃の刃先の形状で、髪の毛を傷めてしまう大問題」にあることは間違いありません。
では最後に、「両櫛セニング」にもカンタンに触れておきます。
何故、ここで両櫛セニングかと言うと、
実は、「両櫛セニング」も、“抜くときに、髪の毛を棒刃に引っかけて傷めてしまう小問題を解決するツール” として紹介されていることが多いのです(上画像)。
これに至っては、もう棒刃自体がないので、確かに髪の毛を傷めることはありません。
じゃー問題はないのか? と言うと…、あります(^^;
両櫛セニングの最大の問題点は「作るのが難しい!」ことです。
そもそも鋏の切る原理は、「2つの刃が1点でピッタリと交差しつつ進んでいくことで、2つの刃の間にある物を切断する」です(上図参照)。
しかも、実際には、タメというものがあり、上の刃は下に、下の刃は上に行こうとする力が働いているのです。
そんな原理で切っているハサミの片方を、溝のある櫛刃にするのわけですから、上手く作らないと「棒刃が櫛刃の溝に引っかかってしまう」のです。
引っかかるセニングでは、ただの不良品ですから、大半の職人さんは、それを恐れて開き気味に作ることが多いんです。
で、開き気味に作ると、今度は「パクつく原因になる」と…。
このように、セニングは作るのが難しいので、それでなくても良いモノが少ないのです。
ましてや、両櫛のセニングとなったら、さらに難易度が上がるので、良いモノを見つけるまでにどれだけのお試しをくり返すことになるのか・・・。
そんな苦労をしてまで、手に入れるほどのメリットはないと、個人的には思います。
というわけで、セニングの解説は以上になります。
今回は、セニングの構造の話が中心になりましたが、「言っていることは正しいけど、その通りに作れてないじゃん!」という話も、これまたよくある話で…(^^;
なので、書かれている売り文句をうのみにせず、「買う前に必ずお試しをする!!」というのが、やっぱり結論になります(^^)